
「二つの障害があるんだけど、年金は二本立てでもらえますか?」
「今、障害年金をもらっていますが、また別の病気が発覚しました。障害年金はどうなりますか?」
精神科に通院していた方が交通事故で肢体不自由になる場合もあれば、糖尿病のように一つの病気が目・足・腎臓・神経に多数の障害を生じさせる場合もあります。
結論からお伝えすると、一人一年金の原則があるため、障害がいくつあっても障害年金は一人1本しかもらえません。
ただし、複数の障害を足すことで等級が上がる(=年金額が上がる)ことがあります。これを「併合」といいます。
“この記事でわかること”
- 二つ以上の障害があるとき、両方請求すべきかどうかの判断基準
- 併合して等級が上がる4つのパターン
- 3つ以上の障害があるときの計算方法
- 例外的な請求方法「初めて2級」と「差引認定」
目次
1.考えるべきことは、実はシンプルです
二つ以上の障害がある場合、足して等級が上がる場合と、上がらない場合があります。
これは完全にケースバイケースで、障害の種類や程度を見て判断する必要があります。制度は非常に複雑ですが、請求時点で考えるべきことは非常にシンプルです。
「もらえる年金額が一番高いのは、どの請求方法か?」という点だけです。
“二つ以上の障害がある場合の判断”
- 二つの障害を足して額が上がる場合 → 両方とも請求する
- 二つの障害を足しても額が上がらない場合 → 有利なほうを選んで請求する
すでに受給権がある方に新たな障害が発生した場合は、その後発の障害を請求することで年金額が上がるかどうかを見ます。
新たに請求する場合は、二つ以上の障害を足して年金額が上がるかを見ます。
また、単独の障害では軽すぎて障害年金をもらえない方でも、複数の障害を組み合わせて受給できる場合があります。
なお、併合に特別な手続きは必要ありません。二つ以上の障害について裁定請求したとき、要件を満たしていれば併合手続きが開始されます。
2.併合しても等級が上がらない場合
たとえば、うつ病(2級~3級程度)と肢体不自由(人工関節置換、3級相当)で事後重症請求を考えているとします。
この場合、両方とも請求する意味はあまりありません。
うつ病(2級4号または3級7号)と人工関節(3級7号)は、足しても等級が上がらない組み合わせだからです。
何も考えずに両方請求してしまうと、受診状況等証明書・診断書・病歴申立書などの書類が両方の障害について必要になり、コストも労力も余分にかかります。
ですからこの場合は、「うつ病なら2級の可能性があるので精神で請求する」「肢体で確実に3級を取る」といったように、請求の難易度も含めて総合的に判断し、有利なほうだけで請求します。
3.併合すると等級が上がる4つのパターン
等級が上がるかどうかは、「併合等認定基準」によって決められています。
▼ 日本年金機構「第2章 併合等認定基準」(PDF)
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/ninteikijun/20140604.files/3-2-1.pdf
この中に「別表1 併合判定参考表」というリストがあり、さまざまな障害について何級何号と定められています。それを併合した結果を表したものが、次の併合認定表です。
表内の数値は「号数」です
- 1号に該当 → 1級
- 2~4号に該当 → 2級
- 5~7号に該当 → 3級
先ほどの例で確認すると、2級4号と3級7号を足しても「2」にしかならず(=2級止まり)、3級7号と3級7号を足しても「6」にしかならない(=3級止まり)ため、複数請求をする意味がないとわかります。
なお、この表に該当していても、次のものは併合ではなく総合的に認定されます。
- 脳疾患や筋ジストロフィー等による、肢体全体に広がる障害(上肢と下肢の併合ではなく、肢体障害として総合認定)
- 内科的疾患の併存
- 複数の精神障害
ですから実務上、併合ができるパターンはそこまで多くありません。しかし併合で等級が上がれば年金額が上がりますので、可能なケースは押さえておく必要があります。
“2つの障害を足して等級が上がるのは、次の4パターンです”
- 2級 + 2級 = 1級
- 2級 + 3級5号 = 1級
- 3級 + 3級5号もしくは6号 = 2級
- 8号~10号 + 8号もしくは9号 = 3級
3-1.2級+2級=1級になるケース
同一傷病で2級相当の障害が二つある場合は、併合で1級になります。別傷病で2級の受給権が二つある場合も同じく1級になります。
別傷病の場合、前発・後発のどちらかが障害厚生年金であれば障害厚生年金が支給されます。両方とも基礎年金なら障害基礎年金です。
結論は以上ですが、制度上は「併合改定」と「併合認定」の2種類の処理があります。
| 前発の障害 | 後発の障害 | 行われる処理 |
|---|---|---|
| 障害基礎年金2級 | 障害基礎年金2級 | 二つの受給権が併合される。前発の受給権は消え、新しく1級の障害基礎年金になる |
| 障害基礎年金2級 | 障害厚生年金2級 | 二つの受給権が併合される。前発の受給権は消え、新しく1級の障害厚生年金になる |
| 障害厚生年金2級 | 障害基礎年金2級 | 前発の障害厚生年金2級が額改定され、1級の障害厚生年金になる ※額改定請求書の添付が必要です |
| 障害厚生年金2級 | 障害厚生年金2級 | 二つの受給権が併合される。前発の受給権は消え、新しく1級の障害厚生年金になる ※年金額は「後発の障害認定日時点の報酬比例部分」で再計算されます |
いずれの組み合わせも、2級が1級になる点は変わりません。2級の障害を二つお持ちの場合は、原則どちらも請求して1級にするのが望ましいという結論になります。
3-2.2級+3級5号=1級になるケース
通常、二つの障害を併合して1級になるのは2級+2級のパターンだけです。
しかし眼や耳の障害で3級相当だった場合は、障害の種類によっては2級+3級でも1級に該当することがあります。具体的には2級の障害に、以下の障害(3級5号)を足した場合です。
同一傷病で複数の障害がある場合は、併合して1級になります。別傷病の場合は以下の取り扱いです。
| 前発の障害 | 後発の障害 | 行われる処理 |
|---|---|---|
| 障害基礎年金2級 | 3級5号の障害 | 障害基礎年金2級が額改定され、1級の障害基礎年金になる |
| 障害厚生年金2級 | 3級5号の障害 | 障害厚生年金2級が額改定され、1級の障害厚生年金になる |
| 障害厚生年金3級5号 (もともと2級以上) | 障害基礎年金2級 | 前発の障害厚生年金3級が額改定され、1級の障害厚生年金になる |
| 障害厚生年金3級5号 (もともと2級以上) | 障害厚生年金2級 | 二つの受給権が併合される。前発の受給権は消え、新しく1級の障害厚生年金になる |
| 3級5号 (もともと2級未満) | 2級相当の障害 | 「初めて1級」として請求するケース(後述) |
※前発障害が3級5号だった場合、もともと2級だったが現在は回復して3級相当になっている場合と、一度も2級になったことがない場合で扱いが異なります。
3-3.3級+3級5号または6号=2級になるケース
3級の障害を二つ組み合わせても、通常は2級になりません。3級の障害は、大半が「3級7号」に該当するからです。
しかし以下の障害については、もう一つの3級の障害と組み合わせることで2級になります。
同一傷病の場合は2級として審査されます。別傷病の場合は以下のとおりです。
| 前発の障害 | 後発の障害 | 行われる処理 |
|---|---|---|
| 障害基礎年金 (障害の程度が3級相当・支給停止中) | 3級以下の障害 | 前発の障害基礎年金が額改定され、2級の障害基礎年金になる |
| 障害厚生年金3級 (もともと2級以上) | 3級以下の障害 | 前発の障害厚生年金が額改定され、2級の障害厚生年金になる |
| 3級相当の障害 (もともと2級未満) | 3級以下の障害 | 「初めて2級」として請求するケース(後述) |
※3級以下の受給権が複数あっても併合認定はされませんので、基礎年金が厚生年金になることはありません。
3-4.8号~10号+8号もしくは9号=3級になるケース
3級未満の障害を二つ足して3級になるケースもあります。
併合判定表によれば、8号~10号の障害と8号~9号の障害を併合すると7号相当、つまり3級として認定されます。
ただし「併合認定の特例」には、次の記載があります。
「上肢(下肢)の障害で3級となるための障害の程度は、原則として併合判定参考表8号以上の障害が併存している場合であるので、併合判定参考表の8号と9号との障害が併存している場合を除き、併合認定の結果にかかわらず、障害手当金と認定する。」
つまり、部位によっては併合表で3級に該当していても、障害手当金として扱われてしまいます。
3-5.3つ以上の障害を組み合わせる場合
3つ以上の障害を組み合わせる場合は、以下のルールで計算します。
“3つ以上ある場合の計算ルール”
- ① 一番軽い障害と、二番目に軽い障害を併合し、併合番号を見る
- ② ①で得た併合番号と、その次に軽い障害を併合し、併合番号を見る
- ③ これを繰り返す
例:視野障害(9号)・視力障害(8号)・上肢障害(6号)・聴力障害(4号)がある場合
- 視野障害(9号)+ 視力障害(8号) → 7号
- 7号 + 上肢障害(6号) → 4号
- 4号 + 聴力障害(4号) → 1号
- 1号は1級相当に該当するため、併合結果は1級
3つ以上障害がある場合は、3級の障害でも三つ組み合わせれば2級になります。
ただし7号と8号以下をどんなに足しても7号のままなので、障害手当金(8号)以下の障害がいくつあっても、絶対に2級にはなりません。
4.請求するときの書類と、例外的な請求方法
実際に二つ以上の障害を組み合わせて請求する場合の実務を見ていきます。
- 同一傷病の場合は、障害の種類ごとに診断書と病歴申立書を用意します(視力と視野の併合、肢体同士の併合などは1枚の診断書で済む場合もあります)
- 糖尿病からくる視力障害と肢体不自由のように種類の違う障害を併合したい場合は、「眼の診断書」「肢体の診断書」の両方を取得します
- 原因傷病が異なる場合は、受診状況等証明書も複数必要になります
- 併合認定には非常に時間がかかるため、新規で二つ以上の障害を請求する場合は同時提出が望ましいとされています
すでに受給権をお持ちの方が新たな障害で併合認定を望む場合は、通常どおり請求を行います。併合改定に該当する場合は額改定請求書を添付します。
なお、障害が複数ある場合は「初めて2級(初めて1級)」と「差引認定」という例外的な請求方法になることがあります。
4-1.初めて2級(初めて1級)
3級以下の障害をお持ちだった方が、後発の障害(基準障害といいます)を負ったことで、併合して2級に該当する場合の請求方法です。
“初めて2級になる条件”
- ① 最初に3級以下の障害を負っていて
- ② 新たに3級以下の障害を負って
- ③ 併合して初めて2級になった場合
「基準障害だけで2級に該当した場合」は初めて2級には該当しません(初めて1級に該当する可能性はあります)。
また「もともと2級以上の受給権を持っていた方が、更新で3級以下になった後に新たな障害を足して再び2級になるケース」も“初めて”2級にはなりません。この場合は併合改定などの処理がされます。
初めて2級には、大きな特徴があります。
通常、併合認定には受給権が二つとも認められる必要があります。しかし初めて2級の場合は、前発障害について受給権がなくても構いません。
前発障害については納付要件も必要なく、初診日当時の年金制度も不問です。
「3級以下の障害が、後発の傷病と併合することで初めて2級になった」ことを証明できれば、後発の障害(基準障害)が2級として認定されます。
逆に言えば「初診日が基準傷病より前にあること」「3級以下の障害だったこと」を証明する必要があるため、前発障害についても診断書をつけて提出することになります。
なお、3級以下の障害と後発の2級以下の障害を組み合わせて初めて1級となった場合は、初めて1級として認定されます。
4-2.差引認定
差引認定とは、同一部位に複数の障害が発生した場合の認定方法です。併合認定とは逆に、前発の障害の影響を差し引きます。
例:学生時代と就職後に、それぞれ事故で目の障害を負った場合
- 学生時代(年金未納)に事故で視力障害(2級相当)を負った ※保険料未納のため障害年金は請求できない
- 就職して厚生年金に加入後(納付要件あり)、再び事故に遭って完全に失明(1級相当)した
この方は障害厚生年金1級をもらえるでしょうか。答えは「もらえない」です。もともと学生時代に2級相当の障害を負っているからです。
受給権は障害ごとに発生するため、1回目の事故と2回目の事故は別々に認定が行われます。
そもそも前発障害の受給権を取っていないので、併合認定や併合改定の問題にはなりません。前発の障害が3級以下なら「初めて1級」による請求が可能ですが、前発が2級なのでそれもできません。
そうすると、この方が障害厚生年金を請求できるのは「2回目の事故で障害が増進した部分だけ」ということになります。
しかし「視力減退」と「失明」という二つの障害を医学的に切り分けるのは困難です。このときに行われるのが差引認定です。
先ほどの例を差引認定で計算すると
- 両目を失明したことによる活動能力減退率 → 134%
- 学生時代にすでに負っていた障害の減退率 → 84%
- 差引残存率 → 50%
- 差引結果認定表に照らすと → 3級12号相当の障害厚生年金
つまりこの方は「もともと2級の障害を負っていて、3級の障害をさらに負った」という差引認定により、3級の障害厚生年金を受給することになります。
なお実務上、差引認定が行われることは多くありません。
たとえば交通事故で左足首を切断し(2級相当)、その後厚生年金加入中に別の事故で右足首も切断した(2級相当)というケースを考えます。
両足首切断の活動能力減退率は119%、前発障害の減退率が63%なので、計算上は56%=3級相当になります。
しかしこの場合は2級の障害厚生年金が請求できます。二つの事故の影響を医学的に切り分けることが容易で、単独での等級認定が可能だからです。
また「後発障害の減退率が差引残存率よりも大きいことが明らかな場合は、後発障害の減退率のみで計算する」という取り扱いもされています。右足首切断は2級4号相当(79%)で56%より大きいため、いずれにせよ差引認定は行われません。
5.まとめ
障害が二つ以上ある場合、足して等級が上がる場合もあれば、変わらない場合も、前発障害が差し引かれて下がる場合もあります。内容は少し難しいかもしれません。
ただ、「二つ以上の障害を組み合わせた請求方法がある」と知っておくことは非常に重要です。二本立てでもらえないとわかった時点で、あきらめてしまう方が多いからです。
年金に満たないような軽い障害でも、併合することで受給できるようになったケースもあります。
「自分も年金額が上がるかもしれない」「よくわからない」という場合は、一度ご相談ください。ご相談は無料です。





